次世代物流戦略としてのドローン活用
国内外の導入事例とともに、メリットや今後の展望を解説
- ドローン
- 小型無人航空機
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- 省人化
- 効率化
- 持続可能性
- イノベーション
2025年8月14日
物流業界は今、ドライバーをはじめとした労働力の不足に加え、EC市場の拡大に伴う配送需要の増加と多様化する顧客ニーズに直面しています。こうした背景から、さらなる効率化とサービス品質の向上を同時に実現することが求められていますが、この課題に対する革新的ソリューションとして注目されるのがドローン(小型無人航空機)です。ドローンの活用は、省人化、コスト削減、配送時間の短縮を可能にし、さらにはこれまでアクセスが困難だった地域への配送も容易にすることから、物流企業の競争力強化に向けた重要な要素として検討されています。物流企業は、この技術をどのように戦略に組み込むべきなのでしょうか。本記事では、ドローン活用の歴史と現状、メリット、物流における具体的な導入事例、そして今後の展望について解説します。
ドローンの発明と活用の歴史
ドローンとは、遠隔操作または自動操縦によって飛行する「小型無人航空機」のことを指します。現代では3つ以上のプロペラを持つマルチコプター型が広く普及していますが、飛行機のような固定翼型、ヘリコプター型など様々な形があります。日本では航空法により、重量100g以上のものが「無人航空機」として定義され、規制を受けています。 ドローンのルーツとなる無人航空機は1930年代に発明されたと言われていますが、電子機器の小型化・高性能化により実用化が進み、1980年代から主に農業や林業の分野で本格的な民間利用が始まりました。2000年代には航空撮影や測量などのより幅広い分野で活用されるようになり、2010年にはスマートフォンによる操縦が可能なドローンが登場したことによって、一般消費者へも急速に普及が進みました。近年では、GPSやAI技術の進化によって自動操縦や高度な制御が可能になり、物流、災害対応、インフラ設備等の点検といった分野への応用も進んでいます。
物流におけるドローンの活用のメリット
メリット
(1)配送ルートの最適化による配送時間の短縮
物流へのドローン導入の最大のメリットは、配送ルートの最適化による配送時間の短縮です。空中を飛行することにより、交通渋滞をはじめとした道路状況に影響を受けないため、従来の陸上輸送よりも迅速な配送が可能となります。
(2)燃料費の削減と環境負荷の軽減
上記のような配送ルートの最適化により燃料費が削減され、それに伴って環境負荷も軽減されます。
(3)省人化
遠隔操作や自動操縦によって配送や各種作業における省人化が可能となり、労働力不足への有効な対応策となります。
活用方法
物流におけるドローン活用として、まずは輸送での利用が挙げられます。具体的には、最終的な配送拠点から顧客の自宅等といった特定の受け渡し場所までの「ラストワンマイル」と呼ばれる配送を、遠隔操作や自動操縦のドローンが担います。上記(1)のメリットを踏まえ、医薬品などの緊急性の高い商品の輸送や、山間部や離島など交通の便が悪い地域への生活必需品の配送、災害時に道路網が寸断された被災地への支援物資輸送の手段としてドローンの普及が期待されています。現在は小型・軽量な荷物(医薬品、日用品、食品など)の配送から実証実験や商用化が進められています。また、輸送におけるドローンの活用では、上記(1)だけでなく、(2)(3)のようなメリットも生まれます。
次に、物流倉庫内における活用が挙げられます。倉庫内の業務効率化と作業精度向上を目的とするもので、具体的には、在庫管理・棚卸し、高所点検、倉庫内の監視・モニタリングといった情報収集・作業支援などでの利用が期待されます。これは(3)のメリットに関連するものです。特に在庫管理・棚卸し業務においてはすでに活用が進んでおり、人が行う従来の作業と比較して大幅な時間短縮と精度向上を実現しています。夜間や休日にドローンが自動で棚卸しを行うシステムも登場し、在庫管理における効率化と省人化に大きく貢献すると考えられます。
物流現場へのドローン導入事例
海外の導入事例
世界最大のEC小売業者の一つであるAmazonは、2013年にドローンを利用したPrime Airという配送サービスの構想を発表しました。将来的には注文から30分以内の配送を目指すとしています。2022年からは米国でサービス提供を開始しており、2023年1月には同年中の配達件数を1万件とする目標を設定していましたが、2023年5月の時点での配達件数は100件程度にとどまっていることが報じられています。当初の計画通りには進んでいないものの、2025年7月現在はテキサス州カレッジステーション、アリゾナ州フェニックスのウェストバレー等でサービスが継続されており、今後は英国とイタリアへ拡大する計画があると発表しています。
米国に本社を置く世界最大のスーパーマーケットチェーンであるWalmartも、ドローンを活用した配送サービスを開始しています。2021年からドローンによる配送を試験的に開始し、アーカンソー州とテキサス州北西部の店舗でテストを重ねてきましたが、2025年6月には新たにアトランタ、シャーロット、ヒューストン、オーランド、タンパの5都市で計100店舗を追加し、約300万世帯へサービス対象を拡大すると発表しました。特に日用品や食料品、市販薬などの緊急性の高い商品の配送に重点を置いて、即時性と利便性の向上を図っおり、2025年6月時点で約15万件の配送が行われています。
中国では、食品宅配サービス大手である美団(Meituan)が2021年に広東省深圳でドローンによる配送を開始しています。その後、北京、上海、広州といった主要都市を中心としてサービス拡大を続けており、2024年には万里の長城などの観光地でも飲食物の受け取りが可能になったことが話題になりました。単にドローンを飛ばすだけでなく、商品の受け渡しを行うドローンポート(受け取りボックス)の設置も並行して行っており、2024年12月末時点には累計で約50万件の配送を行っています。
スウェーデン発祥の世界最大の家具量販店であるIKEAでは、2024年8月時点で欧州や米国の9カ国73拠点で250機以上のドローンを導入し、在庫管理の効率化を進めています。これらのドローンは自律型AIを搭載しており、従業員との衝突を避けるように設計されています。倉庫内では、棚に保管された商品のバーコードやタグをスキャンしてデータを収集し、リアルタイムで在庫管理システムに情報が送られるため、常に正確な在庫状況が把握できます。また、夜間や休日にドローンが自動で作業を行うことで、従業員の安全を確保しつつ、倉庫の稼働を止めることなく効率的な棚卸しが可能となっています。
国内の導入事例
日本国内でも徐々に物流におけるドローンの導入が進んでいます。
埼玉県秩父市では、大手コンビニエスストアチェーンとドローン事業者による、ラストワンマイル配送の実証実験が行われています。物流営業所から配送される商品を、コンビニエンスストア店舗、道の駅、公民館といった中継拠点に一時集約し、中継拠点から個人宅までをドローンによって直接配送するほか、コンビニエンスストアの移動販売車両を活用し、移動先から個人宅へのラストワンマイル配送をドローンによって行います。
秩父市の中山間地では、人口減少に伴い商品の配送量も年々減少しており、トラックの積載率も低下傾向となるため、商品1個あたりの配送コストが増大する課題が生じています。また、面積が広く集落が点在する地域では、トラックの1日の移動距離も長くなる傾向があり、配送効率の向上も課題となっていました。本実証実験では、ドローンを活用した配送の効果を検証して有効性を評価し、複数エリアへの配送拡大を目指しています。
この他にも、国土交通省の事業支援により全国各地でドローン物流の実証実験が活発に行われています。日用品、食品、医薬品などの配送分野での実験が特に増加しており、過疎地域や離島における生活支援、災害時の緊急物資輸送など、地域に根ざした取り組みが広がっています。
物流におけるドローンの実用化に向けた課題
物流におけるドローンの実用化に向けては、下記のような複数の課題があります。これらの課題は複雑に絡み合っており、特に都市部での大規模なラストワンマイル配送など、さらなるドローンの普及を推進するには、技術革新だけでなく、政府や企業、地域社会が連携し、多角的なアプローチで解決していく必要があります。
分類 | 課題 |
技術関連 | ・積載能力の向上 ・測位精度(自己の現在地の特定の正確さ)の向上 ・航続距離(バッテリー性能)の向上 ・自律飛行能力の高度化 |
法整備関連 | ・飛行規制や安全基準の整備 ・プライバシー侵害防止のためのガイドラインの整備 |
インフラ整備関連 | ・離着陸・充電・荷物の積み下ろしができる専用拠点(ドローンポート)の整備 ・高度な空域管理システムの構築と整備 ・複数ドローンの運行管理システムの整備 |
安全関連 | ・墜落・故障リスクの低減 ・悪天候時の安定性確保 |
社会からの受容 | ・飛行による騒音の低減 ・ドローン技術への信頼性向上 |
物流におけるドローン活用の将来性
近年、下記のような技術面・運用面での進歩に伴い、物流業界でのドローン活用は拡大を続けています。
・バッテリー技術の発展によって飛行時間が延長され、より長距離の輸送が可能に
・AIを活用した自律飛行技術が高度化し、都市部や屋内など複雑な環境下での正確な飛行が実現
・センサー技術の進歩が障害物回避能力を高め、悪天候下での運用にも改善
・複数ドローンの連携配送システムや自動離着陸ステーションの整備が進み、配送ネットワークが拡大
・地上配送との組み合わせによるハイブリッド型物流システムの構築
こうした進歩に加え、政府による規制緩和や、それに対応する法整備の進展がドローン物流の実用化を大きく後押ししており、今後もさらなる市場規模の拡大が見込まれています。
日本においては、国土交通省が航空法を改正し、レベル4飛行(有人地帯での目視外飛行)のルールを策定しました。2022年から許可制で解禁されており、都市部での運用拡大が期待されています。矢野経済研究所が2024年に発表した調査結果※によると、国内のドローンおよび配送ロボットを活用した物流市場は、配送料・運送料ベースで2025年度に23億2000万円、2030年度に198億3000万円になると予測されています。
※「2023年版 ドローン及び配送ロボットを活用した物流市場の将来展望(2024年2月5日)より
持続可能な物流実現への現実的なアプローチ
物流におけるドローンの活用は、労働力不足や災害時の輸送ルート確保という物流課題の有力な解決策として期待されていますが、現在では技術面や法整備面などでの課題も多く、国内での広範な実用化にはまだ時間を要すると考えられます。
一方で、企業のサプライチェーンの持続可能性に関する、環境・労働力・災害といった各リスクへの対応は喫緊の課題です。三井倉庫グループのSustainaLinkは、これらのリスクに対して「知る」「見える化する」「改善する」3STEPでアプローチし、お客さまのサプライチェーンサステナビリティを支援する物流サービスです。まずは現在のリスク対策として、SustainaLinkによる持続可能な物流体制の構築をぜひご検討ください。