2025年2月26日

世界の平均気温上昇を1.5℃に抑えることを目指すパリ協定の目標達成に向けた国際的な取り組みとして注目を集めるSBT(Science Based Targets)。企業の温室効果ガス(GHG)削減目標を科学的根拠に基づいて設定するこの仕組みは、投資家からの評価向上やビジネス機会の創出など、多くのメリットをもたらします。本記事では、SBTの概要から認定取得のメリット、特に物流分野におけるScope3削減の具体的なアプローチまでを解説します。

SBTとは?

SBTは、パリ協定が求める水準と整合した、企業が設定するGHG排出削減目標のことです。SBTiという国際的なイニシアチブが、目標基準の設定や、企業が設定した目標に対してSBTの認定を行っています。SBTiはCDP、国連グローバルコンパクト(UNGC)、世界資源研究所(WRI)、世界自然保護基金(WWF)によって共同運営されています。

SBTの考え方は、2015年のパリ協定で合意された「世界の平均気温上昇を産業革命以前と比べて2°Cより十分低く保ち、1.5°Cに抑える努力をする」という目標がベースになっています。この目標達成に向け、SBTの基準では具体的な数値基準を設定しており、定量目標として、Scope1・2(直接排出および電力使用による間接排出)について年間4.2%以上、Scope3(その他の間接排出)について年間2.5%以上のGHG排出量の削減がSBTを設定する企業に求められます*1。
*1中小企業向けSBTの場合はScope3の目標の基準値はなし。

企業は5年から15年の中長期的な期間で具体的な削減目標を設定し、SBTiによる評価・認証を受けることでSBT認定企業となります。

SBT認定を取得するメリット

SBT認定を取得することで、主に4つのメリットを得ることができます。

対投資家のメリット
国際的なイニシアチブが認定する具体的な数値目標と行動計画を示すことで、投資家からのESG投資を呼び込むことができます。

対顧客のメリット
取引先とのビジネス機会の拡大が期待できます。環境意識の高い企業との取引において、SBT認定は重要な取引要件となることがあり、新規取引の獲得や既存取引の維持に寄与します。

対サプライヤーのメリット
SBTで設定した削減目標をサプライヤーに対して示すことで、サプライヤーの環境意識の向上に繋がり、サプライチェーンの調達リスク低減や環境関連のイノベーション促進へつなげることができます

対社内のメリット
GHGの野心的な削減目標を設定することで、社員の環境意識が高まり、新たな技術やアイデアを生み出すイノベーションの原動力となります。

SBT認定は、単なる環境配慮の証明に留まらず、企業価値の向上やリスク低減、長期的な競争力の確保等の包括的なメリットに繋がります。

SBTにおけるScope3の削減

SBTの削減目標の設定にあたっては、Scope3の削減計画を策定する必要があります。

Scope3とは、製品の原材料調達から製造、輸送、販売、消費、廃棄に至るまでの過程においてサプライヤーから間接的に排出される温室効果ガスの量を指し、企業が自社の事業活動をサプライチェーン全体で把握し、排出量削減に取り組む上で重要な概念です。

Scope3にはサプライチェーンの中の物流に関連するGHG排出量も含まれるため、削減に向けた取り組みの検討が重要となります。

物流に関連するGHG排出量削減の具体的なアプローチ

物流に関連するGHG排出量削減の具体的なアプローチとしては以下が挙げられます。

輸送手段の見直し
モーダルシフト(鉄道・船舶への転換)、EVトラック・燃料電池車の導入

輸送効率の向上
輸送ルート最適化、共同配送の活用、積載率の向上

物流施設の省エネ化
LED照明への切り替え、太陽光発電などによる再生可能エネルギーの活用、高効率空調の導入

サプライチェーン全体での取り組み
サプライヤーとの連携による物流効率化、3PL(サード・パーティー・ロジスティクス)の活用による物流効率化、再配達の削減、梱包材の軽量化

物流に関連するGHG排出量削減の課題と今後の展望

物流に関連するGHG排出量削減の最も大きな課題は、サプライチェーン全体での排出量の把握と管理の複雑さです。多数の取引先との連携、データ収集・共有体制の不足、国際物流における算定基準の違いなどが、一貫した排出量把握を困難にしています。

また、低炭素型の輸送手段への切り替えに伴う初期投資負担や、EVトラックの航続距離不足、充電インフラの未整備といった技術的制約も大きな課題となっています。

一方で、今後期待されるのが、デジタル技術の活用です。IoTやブロックチェーンによる輸送データの可視化、AIを活用した輸送ルート最適化により、効率的な削減が可能になると考えられます。また、EVトラックや燃料電池車の性能向上、バイオ燃料の実用化、モーダルシフトの推進など、輸送手段の脱炭素化も進むでしょう。

これらの課題解決には、個社での取り組みに加え、業界全体での協力体制の構築や行政支援が重要です。特に、デジタル技術の活用による効率化と輸送手段の脱炭素化を両輪で進めることで、環境負荷の低減とコスト競争力の向上の両立が期待できます。

SBTにおけるScope3排出削減と三井倉庫グループのSustainaLink

企業がSBT認定の取得を考えるにあたっては、物流分野でのGHG排出削減は重要な課題の一つです。例えば、モーダルシフトや輸送効率の改善、デジタル技術の活用など、実現可能なアプローチは多岐にわたります。

三井倉庫グループではお客さまのサプライチェーンサステナビリティを支援する物流サービスSustainaLink(サステナリンク)を展開しています。業界ガイドライン「GLEC Framework」や国際規格「ISO14083:2023」が求めるプロセスに準拠し、国際輸送にも対応した物流GHG排出量の算定だけでなく、専門的な知見に基づいたGHG排出削減に繋がる物流提案もさせていただくことも可能です。

物流におけるGHG排出量の算定・削減をご検討の際は、ぜひ三井倉庫グループへお問合せください。

SustainaLinkについて
詳しく知りたい方は
お気軽に
お問い合わせください。

世界を舞台にフルスペックの物流機能を提供してきた三井倉庫グループには、様々な業種や幅広い
バリューチェーンに対する豊富な物流ノウハウがあります。
お客様の事業に合わせた柔軟かつ最適な提案・支援が可能です。