2024年12月2日

航空業界の脱炭素化を加速させる「SAF(持続可能な航空燃料)」。SAFは従来の航空燃料に比べCO2排出量を大幅に削減でき、 既存のインフラをそのまま利用できるという利点を持っています。その特徴や課題、将来性、導入事例について詳しく解説します。

SAFとは

気候変動問題の深刻化に伴い、カーボンニュートラル社会の実現が世界的な課題となっています。その中でも、次世代航空燃料「SAF」が注目を集めています。

SAF(Sustainable Aviation Fuel)は、「持続可能な航空燃料」を意味します。
従来の航空燃料が原油から精製されるのに対し、SAFは主に植物由来の廃食油やバイオマス燃料、都市ごみ、廃プラスチックなどの再生可能資源や廃棄物資源から製造されます。

SAFとして認定されるには、厳格な持続可能性の基準を満たさなければなりません。この基準には、大幅なCO2排出量削減だけでなく、 生物多様性への配慮や食料生産との非競合なども含まれます。また、燃料の品質や持続可能性に関する国際的な規格や認証スキーム(ASTM規格、ISCC認証、RSB認証等) に基づいて第三者認証機関からの認証を受ける必要があり、この厳格な基準がSAFの信頼性と効果を保証しています。

SAFが注目を集める背景(航空業界の脱炭素の動き)

航空機は輸送単位当たりのCO2排出量が多く、その削減が急務です。国内航空はパリ協定の枠組みでCO2排出量削減目標が設定されていますが、 パリ協定の各国削減目標の対象とならない国際航空はICAO(国際民間航空機関)がCORSIA(国際航空のためのカーボン・オフセットおよび削減スキーム)と呼ばれる枠組みで削減目標等を設定しています。

SAFは、従来の化石燃料と比べて約80%のCO2排出量削減が可能とされています。これは、SAFの主な原料となる植物が成長過程でCO2を吸収するため、 燃料のライフサイクル全体で見ると、排出量と吸収量のバランスを取ることができるからです。

SAFは航空業界の脱炭素化とカーボンニュートラル社会の実現に向けた重要な解決策として位置づけられており、その開発と普及が急がれています。

SAFの環境面以外の利点

SAFの主な利点は、環境への貢献と実用性の高さ等にあります。最も重要な利点は、環境面でのCO2排出量の大幅な削減です。

一方で、実用面での大きな利点は、既存のインフラをそのまま利用できることです。SAFは従来の航空燃料と同じ特性を持つため、 現在の航空機、エンジン、燃料システム、流通インフラ、貯蔵施設をそのまま使用できます。これにより、新たな設備投資を最小限に抑えつつ、環境負荷を低減することが可能となるのです。

さらに、SAFは長距離航路や大型旅客機にも使用可能であり、電気や水素を動力源とする航空機が抱える距離や機体サイズの制限が少なくなります。

また、国内に目を向けると、SAFの原料は国内で調達できるため、自国での生産が可能となります。 つまり、外部の社会情勢に左右されない安定的な燃料供給体制が構築できます。特に資源を輸入に頼る日本にとって、エネルギー安全保障の観点からも重要な意味を持ちます。

SAF導入の課題

SAFの導入には多くの課題が存在し、その普及に向けては様々な取り組みが必要とされています。主な課題として、次のようなことが挙げられます。

生産量の不足
現在のSAF供給量は、世界のジェット燃料供給量の0.03%にすぎません。また、日本では2030年に国内のジェット燃料使用量の10%に当たる 約170万klまでSAFの需要が増加すると試算されていますが、2025年の供給見込み量は2万kl程度とされており、現状の生産量では圧倒的に不足しています。

高い製造コスト
SAFは従来の化石燃料と比較して2~16倍もの製造コストがかかります。高コストの要因は、原料調達から製造プロセスまで多岐にわたります。

安定的な原料調達の難しさ
世界的なSAF需要の拡大により、主要原料である廃食油の供給量不足と価格高騰が懸念されています。

生産体制と技術の未確立
日本国内では大規模生産に対応できる技術、施設、システムが十分に整備されておらず、サプライチェーンの構築や技術開発が必要です。

多様なステークホルダーの調整
SAFの生産には従来の航空業界以外からも多くの企業が参入しており、生産者と利用者間の調整が必要です。

SAFの将来性

SAFは今後、原料の多様化と技術革新を軸に、大きく発展すると予想されます。現在、主な原料である廃食油の供給不足と価格高騰が課題となっていますが、 この問題に対応するため、新たな原料の開拓が進められているところです。

例えば、米国やブラジルではバイオエタノールの活用が検討されており、日本ではグリーンイノベーション基金を通じて技術開発等が進められています。 また、欧州での可食原料の利用制限を踏まえ、東南アジアや豪州を中心に非可食原料の開拓も進んでいます。

長期的には、2050年までにCO2、水素等の合成燃料由来のSAF(E-SAF)がSAF全体の約半分を占めると予測され、将来的なSAF供給の重要な柱となる可能性があります。

日本政府は2030年までにSAFの利用率を10%に引き上げる目標を設定しており、この目標達成に向けて、国産SAFの開発・生産の推進やサプライチェーンの構築が重要視されています。

また、国際競争力のあるSAFの生産と安定供給を実現するため、設備投資支援や技術開発支援など、さまざまな政策的支援が検討されています。

SAFの導入事例

日本におけるSAFの導入は、企業や組織の取り組みを通じて着実に進展しています。

日本航空(JAL)と全日本空輸(ANA)は、2030年までに全燃料搭載量の10%をSAFに置き換える目標を掲げており、 既に国際線定期便へのSAF搭載や、SAF製造事業への出資が実現するなど、両社ともSAF利用によるCO2排出量削減の環境価値を証書化する取り組みを展開しています。

ユーグレナは、微細藻類ユーグレナを原料としたバイオ燃料「サステオ」の開発に成功し、SAFとしても使用されています。2025年には商業プラントの建設、2026年には年間25万klの本格生産を計画しています。

サプライチェーン全体のCO2可視化が環境対策を加速

SAFの導入により、航空業界のCO2排出量削減が進む一方で、サプライチェーン全体の排出量管理がより重要になっています。 三井倉庫グループの「SustainaLink」は、物流におけるCO2排出量を一括で算定するサービスを提供しています。SAFによる航空輸送のCO2削減と、 SustainaLinkによる物流全体のCO2排出量可視化・削減を組み合わせることで、より効果的な環境対策が可能になります。

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