2024年6月4日

EUは、2050年までの気候中立の達成に向けて、2030年までに温室効果ガス排出量を1990年比で55%削減するための包括的な政策パッケージ「Fit for 55」を推進しています。 2021年の発表から2年が経過した2023年10月にはFit for 55の重要法案が全て成立しました。Fit for 55は、EUでの事業活動や取引を行う企業にも大きな影響を与えます。

本記事では、Fit for 55の概要や重要性について解説します。

Fit for 55とは

Fit for 55は、EUの政策執行機関である欧州委員会が2021年に発表した一括法案です。 2030年までに温室効果ガス排出量を1990年比で少なくとも55%削減するという目標の達成に向けた包括的な政策となっています。

この政策は、炭素価格の引き上げ、クリーンエネルギーへの移行の加速、セメント、鉄・鉄鋼、アルミニウム、肥料、電力、水素等の炭素集約型製品の輸入に対する公平な競争条件の確保などを通じて、 EUの気候目標の達成を後押しすることを目的としています。

Fit for 55の意義や重要性

Fit for 55は、2019年12月に発表された欧州グリーンディールを具体化するための一連の法案改正を提案したものです。 欧州グリーンディールの理念は、新産業戦略、循環型経済行動計画、生物多様性戦略、エネルギーシステム統合戦略、水素戦略など、様々な分野の戦略に落とし込まれてきました。 また、実現のための財源確保や、産業面でのグリーン関連プロジェクトへの補助金制度、産官学連携の促進なども進められてきました。

さらに、欧州気候法の採択により、温室効果ガス排出量を2030年までに55%削減するというEUの気候目標が法的拘束力を持つに至りました。Fit for 55は、この目標達成に向けた具体的な政策を示すものです。

Fit for 55は、EUが気候変動対策をリードし、グリーンで競争力のある経済への転換を図る上で、極めて重要な意義を持っています。 この政策パッケージは、EUの気候目標達成だけでなく、他国に脱炭素化の取り組みを促す効果も期待されています。

Fit for 55の主要な政策と措置

Fit for 55は、EUの2030年の温室効果ガス排出削減目標達成に向けた包括的な政策パッケージであり、主要な政策と措置は以下の通りです。

1. EU排出量取引制度(EU ETS)の強化と範囲拡大
EU排出量取引制度(EU ETS)は、排出枠の無償割当を段階的に削減・廃止することでカーボンプライシングの役割を強化します。 また、海運業界をETSの適用対象に追加し、道路輸送および建物部門を対象とする新たなETSを2026年から実施する予定です。

2. 航空燃料規則(ReFuelEU Aviation)と船舶燃料規則(FuelEU Maritime)の新設
航空燃料規則(ReFuelEU Aviation)と船舶燃料規則(FuelEU Maritime)が新設されます。 航空燃料への持続可能な航空燃料(SAF)の混合を義務付け、船舶燃料のエネルギー使用あたりのGHG排出量に上限を設定することで、これらの分野での排出削減を促進します。

3. 自動車関連の排出基準強化規則の改正
自動車関連の排出基準強化規則が改正され、2035年以降に販売される全ての新車をゼロエミッション車とする方針が打ち出されました。 また、充電ステーションなどのインフラ整備を加速させることで、電気自動車の普及を後押しします。

4. 再生可能エネルギー指令とエネルギー効率指令の改正
再生可能エネルギー指令とエネルギー効率指令も改正されます。2030年の最終エネルギー消費量に占める再生可能エネルギーの割合を40%に引き上げ、 エネルギー消費量の削減目標を36~39%に引き上げます。特に輸送部門と建物に関する施策を重点的に実施することで、これらの分野でのエネルギー効率改善を図ります。

5. エネルギー課税指令の改正
エネルギー課税指令の改正では、重量ベースの課税から、エネルギー含有量と環境性能に応じた課税方式に変更されます。 化石燃料の最低税率を上げ、再生可能エネルギー燃料については下げることで、クリーンエネルギーへの移行を促進します。

6. 国境炭素調整措置(CBAM)の創設
国境炭素調整措置(CBAM)が創設され、2023年10月からセメント、肥料、電気、鉄鋼、水素、アルミニウムを対象に暫定適用が開始されました。 EU製品と域外からの輸入製品との炭素価格を均等にすることで、カーボン・リーケージ*を防止し、公平な競争条件を確保します。
*国内市場が炭素効率の低い輸入品に脅かされ、国内生産が減少すること

Fit for 55は、EUにおける産業・社会構造を大きく改革するプロジェクトであり、欧州委員会が提案した法案は今後、EU理事会と欧州議会の審議を経て成立することになります。 域内外のステークホルダーとの調整が必要であり、紆余曲折が予想されますが、EUの掲げる目標達成に向けた一貫性のある取り組みとして注目されています。

Fit for 55とSustainaLinkの物流CO2算定サービス

Fit for 55は、EUの脱炭素化に向けた野心的な取り組みであり、企業の積極的な環境対策が求められる時代が到来したことを示しています。
三井倉庫グループの提供する物流CO2算定サービス「SustainaLink」は、物流におけるCO2排出量の可視化と削減に役立ちます。 SustainaLinkを活用することで、物流部門のCO2排出量を正確に把握し、効果的な排出削減策を立案することができるでしょう。 EUの政策動向を見据えつつ、物流部門の脱炭素化に早期に取り組むことが、企業の競争力強化につながると考えられます。

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