効率化から持続可能性まで
フィジカルインターネットが描く物流の未来像
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2024年10月30日
ドライバー不足や環境問題など、物流業界はさまざまな課題に直面しています。 これらの課題の解決と、効率的で持続可能な物流システムの実現を目指した「フィジカルインターネット」の取り組みが世界で始まっています。
本記事では、フィジカルインターネットとは何か、求められる理由と発展の歴史、今後のロードマップについて、解説していきます。
フィジカルインターネットとは
フィジカルインターネットとは、インターネットにおいてデジタル情報の伝送に使われるパケット交換の仕組みを、物理的な物資の輸送に適用したものです。
規格化された輸送容器(コンテナ)、効率的な積み替えが可能な物流拠点(ハブ)、貨物や情報の流れを規定したルール(プロトコル)を基本的な要素とし、 発着地を直接結ぶのではなく、ハブでの積み替えや物流リソースの共有化などを前提としてモノのやり取りをするのがフィジカルインターネットのコンセプトです。
フィジカルインターネットが実現することで、物流が効率化・強靭化されると言われています。
フィジカルインターネットの実現イメージ

出所:フィジカルインターネット実現会議(2022)「フィジカルインターネット・ロードマップ」
フィジカルインターネットが求められる理由
フィジカルインターネットが求められる背景には、日本の物流業界が直面する深刻な課題があります。
近年、インターネット通販の普及により物流需要が増加する一方で、少子高齢化による労働人口の減少、特にトラックドライバーの不足が顕著です。
仮にこの状況を放置した場合、2020年代後半には適正なコストでモノが運べなくなる「物流クライシス」を迎えることとなると言われています。
これは物流機能の維持が困難になるだけでなく、経済全体の成長を制約する要因となり、国土交通省によれば、2030年時点で7.5~10.2兆円の経済損失が発生する恐れがあると試算されています。
こうした背景の中、「物流クライシス」を解決するための方法の一つに、生産性向上を通じた物流供給能力の向上がありますが、 究極の物流効率化として「フィジカルインターネット」が注目されています。
フィジカルインターネットの発展の歴史
フィジカルインターネットは、ブノア・モントルイユ、ラッセル・D・メラー、エリック・バローの3名の学者による初期論文の発表が起点となっています。 モントルイユは2011年にマニフェストで物流の持続可能性の欠如を指摘し、13の共通症状を提示。これが、フィジカルインターネットの概念的基礎となりました。
2013年には、欧州でALICE(Alliance for Logistics Innovation through Collaboration in Europe)が設立されました。 ALICEは、産官学からさまざまな企業や団体が参加し、フィジカルインターネットの普及促進に取り組んでいます。
2014年からは国際フィジカルインターネット会議(IPIC)が開催されるようになり、国際的な研究交流が活発化しました。 2015年と2016年には、米国とフランスにフィジカルインターネットセンターが設立され、企業や学術機関と連携した研究が進められています。
2020年、ALICEは2040年までのフィジカルインターネット実現に向けたロードマップを発表しました。 このロードマップは、物理的インフラから情報システム、ガバナンスに至るまでの包括的な計画を示しています。
日本では2019年頃からフィジカルインターネットへの関心が高まり、研究会やシンポジウムが開催されるようになりました。 2021年には「総合物流施策大綱」でも言及され、大手企業による研究や業界を超えた共同物流の取り組みが始まっています。
日本におけるフィジカルインターネット実現に向けたロードマップ
日本におけるフィジカルインターネット実現に向けたロードマップは、2040年を目標年次とし、以下の主要な領域で段階的な進展を描いています。
輸送機器の自動化・機械化
自動運転トラックやドローンによる物流網の高度化を目指し、高度道路交通システムや自動運転技術開発、関連法整備を推進する。
物流拠点の自動化
自動倉庫や無人フォークリフトなど自動化・機械化を進め、結節点としての機能強化を目指す。
サプライチェーンマネジメントの垂直統合
デジタル化と標準化を推進し、サプライチェーン全体のデータ共有と機能連携を実現する。
水平連携(標準化・シェアリング)
物流現場における情報の非統一に起因する負担の解消を図るため、標準化とシェアリングを推進する。
物流・商流データプラットフォーム
倉庫管理システムや輸配送管理システムなど、各種プラットフォームを相互接続し、データ連携を強化する。
ガバナンス
全国規模のフィジカルインターネット・エコシステム構築を目指し、ルール形成を促進する。。
フィジカルインターネットがもたらす価値
フィジカルインターネットは、物流の効率化、物流の強靭性の向上、良質な雇用の確保、そしてユニバーサル・サービスの実現という4つの観点を軸に、 持続可能な社会の実現に貢献することが期待されています。
効率性:世界で最も効率的な物流化
物流関連のリソースを最大限に活用することで、究極の物流効率化を実現します。これは、物流クライシスや物流コストインフレといった課題を解決し、
経済活動を物流の制約から解放するだけでなく、輸送部門の温室効果ガス排出量削減にも大きく貢献します。
強靭性:止まらない物流
フィジカルインターネットは、生産拠点、輸送手段、経路、保管、販売、消費について多様な選択肢から選ぶことが可能になります。
また、企業間や地域間のデータ共有および連携を促進することで、迅速な情報収集、企業間や地域間の協力、そしてトラック以外の輸送手段の活用を促進し、
物流の強靭性を飛躍的に高めます。災害時においても、状況把握、輸送手段や生産拠点の変更等を迅速に行うことで、サプライチェーンの寸断を回避し、
継続的な物資流通を可能にする「止まらない物流」を実現します。
良質な雇用の確保:成長産業としての物流
物流現場の作業負荷を軽減し、労働環境を改善することで、必要な人材の確保に貢献します。労働生産性の向上は、企業の成長と従業員の賃金増加を促進し、
トラックドライバー不足の解消にも繋がる好循環を生み出します。さらに、マテハン機器市場の成長、配送ロボットの実用化、
新たなサービスの展開といった物流関連産業の創出を加速させ、国内だけでなく海外への輸出産業としても成長する可能性を秘めています。
ユニバーサル・サービス:社会インフラとしての物流
物流リソース、機能、情報を共有するデータプラットフォームが構築されることで、開放的・中立的な社会インフラが確立されます。
効率的な物流を実現することで、食品アクセス問題(食料品の購入や飲食に当たっての不便や苦労)への対応や地域ごとに存在する物流課題の解決に貢献します。
また、輸送資源の乏しい地域においても、データプラットフォームへの接続を通じて、貨客混載等の地域輸送資源の効率的な活用を促します。
フィジカルインターネットと三井倉庫グループのSustainaLink
フィジカルインターネット時代の到来はまだ未来のことですが、持続可能でイノベーティブな社会の実現に大きく貢献する可能性を秘めていることは言うまでもありません。 一方、企業のサプライチェーンの持続可能性に関するリスクへの対応は喫緊の課題です。三井倉庫グループでは、 お客さまのサプライチェーンサステナビリティを支援する物流サービスSustainaLink(サステナリンク)を展開しています。 CO2排出量の可視化や削減、物流効率化、災害対策などへの取り組みをご検討の際は、ぜひお問合せください。