効率化から持続可能性まで
フィジカルインターネットが描く物流の未来像
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公開日:2024年10月30日 最終更新日:2025年11月3日
ドライバー不足や環境問題など、物流業界はさまざまな課題に直面しています。 これらの課題の解決と、効率的で持続可能な物流システムの実現を目指した「フィジカルインターネット」の取り組みが世界で始まっています。
本記事では、フィジカルインターネットとは何か、求められる理由と発展の歴史、今後のロードマップについて、解説していきます。
フィジカルインターネットとは
フィジカルインターネットとは、インターネットでデジタル情報を送る「パケット交換」の仕組みを、現実(フィジカル)のモノの輸送に応用した考え方です。
この仕組みは、以下の3つを基本要素とします。
・規格化された輸送容器(コンテナ)
・効率的な積み替えが可能な物流拠点(ハブ)
・貨物や情報の流れを規定したルール(プロトコル)
フィジカルインターネットのコンセプトは、発着地を直接結ぶ従来の輸送とは異なります。具体的には、ハブでの積み替えや、トラックなどの物流リソースの共有を前提としてモノをやり取りします。
このように物流の仕組みを変革することで、物流の「効率化」と「強靭化」が実現されると言われています。
フィジカルインターネットの実現イメージ
出所:フィジカルインターネット実現会議(2022)「フィジカルインターネット・ロードマップ」
フィジカルインターネットが求められる理由
フィジカルインターネットが求められる背景には、日本の物流業界が直面する深刻な課題があります。 例えば、インターネット通販の普及で物流需要が増加する一方、少子高齢化によりトラックドライバーなどの労働人口は減少しています。
このまま状況を放置すれば、2020年代後半には適正なコストでモノが運べなくなる「物流クライシス」を迎えると言われています。物流クライシスは、物流機能の維持を困難にするだけでなく、経済全体の成長を制約する要因にもなります。国土交通省は、2030年時点で7.5~10.2兆円の経済損失が発生する恐れがあると試算しています。
こうした背景から、「物流クライシス」の解決が急務となっています。その方法の一つが、生産性向上による物流供給能力の向上です。そして、この生産性向上を実現する「究極の物流効率化」として、フィジカルインターネットが注目されています。
フィジカルインターネットの発展の歴史
フィジカルインターネットは、ブノア・モントルイユ氏ら3名の学者による初期論文の発表が起点となっています。特にモントルイユ氏は、2011年のマニフェストで物流の持続可能性の欠如を指摘し、13の共通症状を提示しました。この提言が、フィジカルインターネットの概念的な基礎となりました。
その後、欧州では2013年にALICE(Alliance for Logistics Innovation through Collaboration in Europe)が設立されました。ALICEは、産官学からさまざまな企業や団体が参加し、フィジカルインターネットの普及促進に取り組んでいます。
2014年からは国際フィジカルインターネット会議(IPIC)が開催され、国際的な研究交流が活発化しました。2015年と2016年には、米国とフランスにフィジカルインターネットセンターが設立され、企業や学術機関と連携した研究が進められています。
2020年、ALICEは2040年までのフィジカルインターネット実現に向けたロードマップを発表しました。このロードマップは、インフラから情報システム、ガバナンスに至る包括的な計画を示しています。
一方、日本では2019年頃から関心が高まり、研究会やシンポジウムが開催されるようになりました。2021年には「総合物流施策大綱」でも言及され、現在では大手企業による研究や、業界を超えた共同物流の取り組みも始まっています。
日本におけるフィジカルインターネット実現に向けたロードマップ
日本におけるフィジカルインターネット実現に向けたロードマップは、2040年を目標に、以下の主要な領域で段階的な進展を描いています。
輸送機器の自動化・機械化
自動運転トラックやドローンによる物流網の高度化を目指します。そのために、高度道路交通システム(ITS)や自動運転技術開発、関連法整備を進めます。
物流拠点の自動化
自動倉庫や無人フォークリフトの導入を推進し、物流拠点(ハブ)の機能強化を目指します。
サプライチェーンマネジメントの垂直統合
デジタル化と標準化を進め、サプライチェーン全体のデータ共有と機能連携を実現します。
水平連携(標準化・シェアリング)
物流現場では、伝票やシステムが統一されていないことに起因する負担が課題となっています。そこで、データの標準化と物流リソースのシェアリングを推進し、この負担を解消します。
物流・商流データプラットフォーム
倉庫管理システム(WMS)や輸配送管理システム(TMS)など、各種プラットフォームを相互接続し、データ連携を強化します。
ガバナンス
全国規模のフィジカルインターネット・エコシステム*を構築するため、共通のルール形成を促進します。
*エコシステム:複数の企業や組織が共存・共栄する仕組み
フィジカルインターネットがもたらす価値
フィジカルインターネットは、持続可能な社会の実現に向けて、主に以下の4つの価値をもたらすことが期待されています。
1. 効率性:世界で最も効率的な物流へ
物流関連のリソース(トラック、倉庫、人など)を最大限に活用し、究極の物流効率化を目指します。これにより、物流クライシスやコスト高騰といった課題を解決します。経済活動を物流の制約から解放するだけでなく、輸送部門の温室効果ガス排出量削減にも大きく貢献します。
2. 強靭性:止まらない物流へ
フィジカルインターネットが実現すると、生産拠点、輸送手段、経路などを多様な選択肢から選ぶことが可能になります。また、企業や地域を越えたデータ連携により、迅速な情報収集やトラック以外の輸送手段活用も促進されます。この結果、物流の強靭性が飛躍的に高まります。災害時でも、状況把握や輸送手段の変更などを迅速に行い、サプライチェーンの寸断を回避する「止まらない物流」を実現します。
3. 良質な雇用の確保:成長産業としての物流へ
物流現場の作業負荷を軽減し、労働環境を改善することで、必要な人材の確保に貢献します。そして、労働生産性の向上は、企業の成長と従業員の賃金増加を促進し、トラックドライバー不足の解消にも繋がる好循環を生み出します。さらに、マテハン機器*市場の成長や配送ロボットの実用化など、新たな物流関連産業の創出を加速させます。これらの新産業は、国内だけでなく海外への輸出産業として成長する可能性も秘めています。
*マテハン機器:マテリアルハンドリング機器の略。モノの搬送・保管・仕分けなどを効率化する自動化機器。
4. ユニバーサル・サービス:社会インフラとしての物流へ
物流のリソース、機能、情報を共有するデータプラットフォームが構築されることで、誰もが使える開放的・中立的な社会インフラが確立されます。このインフラは、効率的な物流を実現することで、過疎地などの「食品アクセス問題」(買い物が困難な状況)や、地域ごとの物流課題の解決に貢献します。また、輸送資源が乏しい地域でも、データプラットフォームを通じて貨客混載*などを効率的に活用できるようになります。
*貨客混載:旅客用のバスやタクシーに貨物を載せて運ぶこと
フィジカルインターネットと三井倉庫グループのSustainaLink
フィジカルインターネット時代の到来はまだ未来のことです。しかし、それが持続可能でイノベーティブな社会の実現に大きく貢献する可能性を秘めていることは言うまでもありません。
一方で、フィジカルインターネットの実現を待つだけでなく、企業が「今すぐ」サプライチェーンの持続可能性に関するリスクに対応することは喫緊の課題です。
そこで三井倉庫グループでは、お客さまのサプライチェーンサステナビリティを支援する物流サービス「SustainaLink(サステナリンク)」を展開しています。
CO2排出量の可視化や削減、物流効率化、災害対策など、持続可能な物流への取り組みをご検討の際は、ぜひお問合せください。










