2025年5月15日

近年、ガソリン価格の高騰や環境問題への関心の高まりから、エコドライブへの注目が集まっています。エコドライブは、地球温暖化の原因となるCO2排出量を削減するだけでなく、燃費向上や交通事故防止にもつながる、企業にとっても社会にとっても有益な取り組みです。この記事では、エコドライブの基本的な考え方から、企業が組織的にエコドライブを導入し、持続的な成果を上げるための具体的な実践方法、そしてそれがもたらす多面的なメリットについて分かりやすく解説します。

エコドライブとは:環境と経済の調和

「エコドライブ」とは、「エコロジカル(ecological)」と「エコノミカル(economical)」の二つの「エコ(eco)」を組み合わせた言葉です。つまり、地球環境に配慮した運転であると同時に、経済的な運転でもあることを意味します。具体的には、急発進、急加速、急ブレーキを避け、一定速度での走行、アイドリングストップ、適切なタイヤの空気圧管理などを心がける運転方法です。これらの運転技術や心がけは、燃料消費量を抑え、CO2排出量を削減するだけでなく、交通事故のリスクを低減し、車両のメンテナンスコスト削減にも繋がります。

全日本トラック協会の「エコドライブ推進マニュアル」によれば、エコドライブは環境に配慮した運転方法により、環境保護、資源保護、経済的利益を追求すると同時に、穏やかな運転を心掛けることによる安全性の向上も目指すものです。つまり、エコドライブは「環境」「安全」「経営」の3つの側面から企業活動に貢献する重要な取り組みとして位置づけられています。

環境に優しい運転「エコドライブ10のすすめ」

環境省が提唱する「エコドライブ10のすすめ」は、企業がエコドライブを導入し、その効果を最大化するための具体的な指針となります。それぞれの内容は以下の通りです。

1. ふんわりアクセル「eスタート」
発進時はアクセルを穏やかに踏み込み、スムーズにスタートしましょう。目安として最初の5秒で時速20km程度が適切です。急発進を避けるだけで、約10%の燃費改善効果があると言われています。

2. 車間距離にゆとりをもって、加速・減速の少ない運転
走行中は、十分な車間距離を保ちましょう。車間距離が詰まっていると、不要な加速・減速が増え、市街地で約2%、郊外では約6%も燃費が悪化するとされています。一定速度での走行を心がけることが大切です。

3. 減速時は早めにアクセルを離そう
停止位置が予測できたら、早めにアクセルペダルから足を離し、エンジンブレーキを活用して減速しましょう。これにより燃料供給が停止(フューエルカット)され、約2%の燃費改善につながります。

4. エアコンの使用は適切に
エアコン(A/C)スイッチは燃費に大きく影響します。暖房のみ必要な場合はA/CスイッチをOFFにし、冷房が必要な場合も車内温度を適切に設定し、過度に冷やしすぎないようにしましょう。例えば、車内の温度設定を外気と同じ25℃に設定した場合エアコンスイッチをONにしたままだと12%程度燃費が悪化します。

5. ムダなアイドリングはやめよう
駐停車時や荷物の積み下ろし中など、エンジンをかけたままにするアイドリングは燃料のムダです。10分間のアイドリングで約130cc(車種により異なる)の燃料を消費すると言われています。 *アイドリングストップ機能搭載車を除く

6. 渋滞を避け、余裕をもって出発しよう
出発前に交通情報を確認し、渋滞が予測されるルートや時間帯を避けるなど、計画的な運転を心がけましょう。時間に余裕を持って出発することも、焦りによる急加速・急減速を防ぎ、結果的に燃料費の節約につながります。例えば、1時間のドライブで道に迷い、10分間余計に走行すると17%程度燃料消費量が増加します。

7. タイヤの空気圧から始める点検・整備
タイヤの空気圧が適正値より低い状態で走行すると、転がり抵抗が増加し、市街地で約2%、郊外で約4%燃費が悪化するとされています。定期的に空気圧をチェックし、適正値を保ちましょう。エンジンオイルやオイルフィルター、エアクリーナーエレメントなどの定期的な交換・清掃も燃費改善につながります。

8. 不要な荷物はおろそう
車内に不要な荷物を積んだままにすると、車両重量が増加し、燃費が悪化します。例えば、100kgの荷物を積んで走行すると、約3%燃費が悪化すると言われています。

9. 走行の妨げとなる駐車はやめよう
交差点付近やバス停周辺など、他の車両の走行を妨げる場所への迷惑駐車はやめましょう。迷惑駐車は交通渋滞を引き起こし、他の車の燃費を悪化させるだけでなく、交通事故の原因にもなります。

10. 自分の燃費を把握しよう
燃費計や車両管理システム、エコドライブ支援機能などを活用して、日々の運転における燃費を把握する習慣をつけましょう。燃費を意識することがエコドライブ実践の第一歩であり、効果を実感しやすくなります。

PDCAサイクルで始める!効果的なエコドライブの実践

エコドライブを企業全体で定着させるためには、上記「エコドライブ10のすすめ」のドライバーへの周知に加え、計画的かつ継続的な活動が不可欠です。ここでは、品質管理や業務改善の手法として広く知られるPDCAサイクルを導入し、効果的にエコドライブを推進するためのステップを紹介します。

PLAN(計画):目標設定と体制構築

具体的な目標設定
まずは、エコドライブ活動を通じて達成したい目標を具体的に設定します。「前年比〇%の燃費向上」「車両1台あたりのCO2排出量〇%削減」「エコドライブ項目別達成率〇%」など、測定可能で達成可能な数値目標を定めることが重要です。全社目標、部署別目標、個人目標などを段階的に設定することも有効です。

推進体制の構築と役割分担
エコドライブ推進の責任者を明確にし、活動を主導するチームや担当者を任命します。燃費データの収集・記録担当、データ分析・評価担当、教育・啓発担当、現場へのフィードバック担当など、役割を分担することで、効率的かつ責任ある活動が可能になります。経営層のコミットメントを得ることも成功の鍵です。

DO(実行):記録と実践

燃費記録の開始
計画に基づき、全車両で燃費記録を開始します。ドライバーは毎日の運転終了後や給油時に、走行距離や給油量などを正確に記録します。記録の習慣化が重要であり、記入漏れや誤記がないよう、初期段階での指導や確認を丁寧に行います。

エコドライブの実践
ドライバーは「エコドライブ10のすすめ」を意識し、日々の運転で実践します。特に「ふんわりアクセル」「早めのアクセルオフ」「加減速の少ない運転」「アイドリングストップ」などは効果が出やすい項目です。管理者は、朝礼や点呼時などを活用し、エコドライブの実践を継続的に呼びかけます。

CHECK(評価):データ分析とフィードバック

燃費記録表の収集とデータ化
定期的に(例:毎月)ドライバーから燃費記録表を回収し、データを集計・入力します。車両管理システムを利用している場合は、システムからデータを抽出します。

データの分析と評価
収集したデータを分析し、車両別、ドライバー別、部署別などの燃費実績や目標達成度を評価します。燃費が改善している車両・ドライバー、逆に悪化している車両・ドライバーを特定し、その要因を分析します(走行ルート、積載量、運転特性など)。CO2排出削減量なども算出し、活動の効果を定量的に把握します。

結果のフィードバック
分析結果や評価を、経営層、管理者、そしてドライバーを含む全従業員に分かりやすく共有します。全体の進捗状況、目標達成度、優秀な実績(個人・部署)、改善が必要な点などを定期的に報告します。グラフなどを用いて視覚的に示すと効果的です。好事例は積極的に共有し、モチベーション向上につなげます。

ACT(改善):活動の見直しと継続

改善策の立案と実施
評価結果に基づき、さらなる燃費向上やエコドライブ定着のための改善策を検討し、実行します。例えば、燃費が悪化しているドライバーへの個別指導、運転技術研修の実施、より効果的な燃費管理方法の導入、エコドライブコンテストや表彰制度の導入などが考えられます。車両の点検整備体制を見直すことも重要です。

目標や計画の見直し
活動の進捗状況や外部環境の変化(燃料価格の変動など)を踏まえ、必要に応じて目標値や推進計画を見直します。PDCAサイクルを継続的に回していくことで、エコドライブ活動を形骸化させず、常に改善を図りながら持続的な取り組みへと発展させていきます。

エコドライブが生み出す4つのメリット

エコドライブの実践は、環境負荷の低減という社会的な要請に応えるだけでなく、企業経営や従業員にとっても多くの具体的なメリットをもたらします。

燃費向上によるコスト削減
エコドライブの最も直接的な効果は、燃費の向上です。「エコドライブ10のすすめ」を実践することで、一般的に10%程度の燃費改善が期待できると言われています。これは、燃料費の大幅な削減に直結します。特に、多くの車両を保有し、走行距離の長い運輸・物流事業者にとっては、燃料費の削減は経営効率の改善に大きく貢献します。また、タイヤの空気圧管理や穏やかな運転はタイヤの摩耗を抑制し、交換頻度を減らすことにも繋がり、メンテナンスコストの削減にも寄与します。

環境負荷軽減による社会貢献
燃費が向上するということは、燃料消費量が減り、それに伴ってCO2排出量も削減されることを意味します。エコドライブは、特別な設備投資をせずとも、日々の運転の工夫で地球温暖化防止に貢献できる、身近で効果的な取り組みです。

交通事故削減による安全性の向上
エコドライブの基本は、「急」のつく操作(急発進、急加速、急ハンドル、急ブレーキ)を避け、常に心と時間にゆとりを持って運転することです。十分な車間距離を保ち、周囲の交通状況をよく見て、危険を予測しながら運転するスタイルは、そのまま安全運転の実践につながります。また、定期的なタイヤ点検や車両整備は、車両トラブルによる事故のリスクを低減します。エコドライブの推進は、結果として交通事故の発生件数を減らし、従業員の安全を守るとともに、事故に伴う様々な損失(修理費、保険料増、信用の失墜など)を防ぐことにもつながります。全ドライバーがエコドライブを実践すれば、交通事故は約半分に減らせるという試算もあります。

信頼性・企業価値の向上
環境問題への意識が世界的に高まる中、企業がエコドライブに積極的に取り組み、環境負荷低減に努める姿勢は、顧客、取引先、地域社会、そして従業員といったステークホルダーからの信頼獲得につながります。荷主企業に対して燃費データに基づいたCO2排出量削減の実績を示すことは、サプライチェーン全体での環境取り組みにおいて、協力関係を強化する上で有利に働きます。さらに、環境に配慮した企業活動は、企業のブランドイメージを高め、優秀な人材の獲得や定着にも好影響を与えます。 また、環境に関するパフォーマンスの向上は、FTSEやCDPなどの外部評価機関からの評価向上を通じた、企業価値の増大に寄与する可能性があります。

エコドライブとSustainaLink

エコドライブは、日々の運転における少しの工夫と心がけで、燃料消費とCO2排出量を削減し、同時に安全運転を促進する、非常に効果的かつ実践的な取り組みです。特に多くの車両を運用する企業にとっては、経営効率の改善と社会的責任の両立に不可欠な要素と言えるでしょう。

一方で、企業がサプライチェーン全体での環境負荷低減や脱炭素化を進める上では、エコドライブのような個別の取り組みに加え、自社の物流活動全体から排出されるCO2排出量を正確に把握し、管理していくことも極めて重要です。

三井倉庫グループではお客様からいただいた物流データを元にCO2排出量を一括算定できるサービス「MS CO2 Analyzer」を展開しています。CDPやSBTi等からも推奨される業界ガイドライン「GLEC Framework」や国際規格「ISO14083:2023」が求めるプロセスに準拠しているため、その算定結果は様々な開示・報告にご活用いただけます。初回は無料にて算定トライアルをお試しいただけるのでぜひお問合せください。

SustainaLinkについて
詳しく知りたい方は
お気軽に
お問い合わせください。

世界を舞台にフルスペックの物流機能を提供してきた三井倉庫グループには、様々な業種や幅広い
バリューチェーンに対する豊富な物流ノウハウがあります。
お客様の事業に合わせた柔軟かつ最適な提案・支援が可能です。