私たちの身の回りにある商品や製品が手元に届くまでの「調達、製造、在庫管理、配送、販売、消費」といった一連の流れのことをサプライチェーンといいました。[注1]
そして、そのサプライチェーンに登場するプレイヤー間の物的な取引を支える役割を担うのが物流です。物流はその性質から、一般消費者からは見えにくい活動ですが、縁の下の力持ちとして私たちの経済活動や暮らしを支える社会インフラの一つであり、それは労働力人口の減少や新型コロナウイルス感染症の拡大といった社会課題の顕在化に伴い、改めて認識されています。
今回は、こうした社会インフラとしての物流を支えるため、日本政府が様々な社会課題に対する施策をまとめた「総合物流施策大綱」について紹介します。
[注1]サプライチェーンとは何か具体例を交えて徹底解説|三井倉庫グループ
総合物流施策大綱とは何か
「総合物流施策大綱」とは、日本政府が国の産業競争力の強化や国民の生活を持続的に支えることを目的として、その時々の社会情勢に対応した物流に関する総合的な取り組みを取りまとめたもので、1997年の最初の策定以降、4年ごとに策定されています。
総合物流施策大綱が策定される以前は、物流に係る各省庁が独自に政策を策定、実施してきましたが、総合物流施策大綱の策定以降、経済産業省・国土交通省・環境省などの関係省庁が連携して総合的・一体的な物流施策の推進をはかっています。
なお、総合物流施策大綱の最新版である総合物流施策大綱(2021年度~2025年度)は2021年6月15日に閣議決定されました。
総合物流施策大綱の変遷
これまで策定された総合物流施策大綱で想定されていた社会課題と、それに対する施策の指針は以下の通りです。[注2]
年度 | 物流を取り巻く現状・課題 | 物流施策の方向性 |
---|---|---|
1997~2001 |
|
|
2001~2005 |
|
|
2005~2009 |
|
|
2009~2013 |
|
|
2013~2017 |
|
|
2017~2021 |
|
|
2021~2025 |
|
|
総合物流施策大綱(2021年度~2025年度)について
総合物流施策大綱(2017年度~2021年度)策定以降、「宅配クライシス」に象徴される物流産業の労働力不足の問題や、自然災害の激甚化によって露呈した物流ネットワーク脆弱性の問題など、多くの問題が顕在化しました。また、2020年には新型コロナウイルス感染症拡大の影響によって、人々の生活様式および経済活動が変容する中で、様々な課題に対応する必要が生じています。
こうした状況の中、これら課題に対する中長期的な施策を定めた総合物流施策大綱(2021年度~2025年度)が策定されました。[注3]
総合物流施策大綱(2021年度~2025年度)では、以下を目指すべき目標と定めています。
- 「簡素で滑らかな物流」の実現:物流 DX や物流標準化の推進によるサプライチェーン全体の徹底した最適化
- 「担い手にやさしい物流」の実現:労働力不足対策と物流構造改革の推進
- 「強くてしなやかな物流」の実現:強靱で持続可能な物流ネットワークの構築
総合物流施策大綱(2017年度~2021年度)は「強い」物流の構築が大きな目標でしたが、総合物流施策大綱(2021年度~2025年度)では新型コロナウイルス感染症拡大の影響によって生じた経済や社会生活の劇的な変化に対応するため、「強い」という概念にとらわれない「簡素でなめらかな」「担い手にやさしい」「強くてしなやかな」物流の構築を目指しています。
[注3]物流:総合物流施策大綱(2021年度~2025年度)|国土交通省
物流を取り巻く「現在」「過去」「未来」が分かる総合物流施策大綱
1997年より20年以上にもわたって策定されている「総合物流施策大綱」。物流が果たしている社会インフラとしての役割については言うまでもありませんが、経済・社会環境の変化に伴ってそうした物流の役割も変化していきます。そういった意味でも、日本の物流政策の「現在」「過去」「未来」を映し出しているのが総合物流施策大綱です。ぜひ一度触れてみてはいかがでしょうか。