2025年1月23日

2024年4月から、トラックドライバーの労働時間に上限規制が設けられることで、物流業界をはじめとする各界に大きな影響をもたらす「物流2024年問題」。年間960時間という時間外労働の上限により、輸送能力の低下や、労働時間規制に伴う収入減による人材確保の難化など、さまざまな問題が浮上しています。本記事では、この問題の背景や影響、そして企業が取るべき対策について詳しく解説します。

物流2024年問題とは

物流2024年問題とは、働き方改革関連法によるトラックドライバーの労働時間規制に起因する各種の問題です。この規制では、時間外労働の上限が年間960時間に制限されることとなります。これは2019年に施行された労働時間規制の一環でしたが、物流業界には5年間の猶予期間が設けられており、2024年3月にその期間が終了しました。 この規制により、さまざまな影響が懸念されています。まず、労働時間が制限されることで輸送能力が低下し、物流の停滞が予測されます。運送の売上・利益の減少や、それに伴うドライバーの収入減少も見込まれており、さらには収入減少によって人材確保が一層難化することも危惧されています。特にトラック業界は他業種と比較して労働時間が長い傾向にあるため、この規制によって大きな影響を受けると考えられています。このようなことから、「モノが運べなくなる」という物流機能の低下が社会的な課題として注目を集めているのです。

物流2024年問題の背景(働き方改革関連法)とこれまでの経緯

働き方改革関連法は、少子高齢化による労働力不足や長時間労働の慢性化、育児・介護との両立など、日本が直面する労働問題の解決を目指して2018年6月に成立しました。この法律では、労働基準法など関連法の改正を通じ、働く人々が個々の事情に応じて多様で柔軟な働き方を実現できることを目指しています。

時間外労働の規制については、一般企業では2019年(中小企業は2020年)から年間720時間、特別条項付き36協定を締結する場合は年間960時間の上限が適用されており、これには月100時間未満、2~6か月平均80時間以内などの制限も含まれます。一方、トラック運転業務を含む一部業種は、業務の特性上、長時間労働になりやすいことから猶予期間が設けられており、2024年3月までは適用除外となっていました。

この猶予期間が終了する2024年4月からは、トラック運転業務にも年間960時間の時間外労働上限が適用されることとなりました。また、厚生労働省が定める「改善基準告示」による拘束時間の規制も強化され、違反した場合は6ヶ月以下の懲役もしくは30万円以下の罰金という罰則も設けられています。

これらの新たな規制への対応と、物流の持続的成長を目的として、2024年2月には物流に関連する法律の改正案が閣議決定されるなど、国としてもドライバーの負荷低減につながる対策に乗り出しています。

物流2024年問題の影響
物流2024年問題によって、さまざまな影響がもたらされることが予想されます。その詳細について解説します。

運送会社への影響
労働環境の改善によりドライバーの健康と安全性が向上し、過労による事故リスクが低減します。また、労働条件の改善は人材の定着率向上や新規採用の促進にもつながる可能性があります。
一方で、労働時間規制により対応可能な業務量が減少し、売上や利益の減少が懸念されます。人件費は抑制できてもその他の固定費は変わらないため、経営への影響は避けられない状況です。

荷主企業への影響
輸送能力不足により、モノが運べなくなるというリスクがあります。また、運送会社からの値上げ要請への対応が必要となり、物流コストの上昇による収益悪化が懸念されます。

一般消費者への影響
配送リードタイムの長期化、配送頻度の低下、さらには物流コストの上昇による商品価格への転嫁が予想されます。特に地方では、配送サービスの縮小や、当日・翌日配送などの短納期サービスが制限される可能性があります。

トラックドライバーへの影響
時間外労働の上限規制により、生活リズムが安定し、ワークライフバランスを取りやすくなります。また、長時間労働による身体的負担やストレス、睡眠不足などの健康上の問題が軽減され、より持続可能な働き方が実現できると考えられます。
一方で、時間外労働の減少により収入が大幅に減少する可能性があります。トラックドライバーの給与は、基本給に加えて走行距離や長距離運行による手当で構成されている場合も多く、労働時間の制限はこれらの収入減少に直結します。この収入減少は、より条件の良い企業への転職や離職を促す要因となり、すでに深刻化しつつある人手不足に拍車をかける懸念があります。

物流2024年問題への対応

物流業界全体での現状の取り組み

政府は2023年6月に「物流革新に向けた政策パッケージ」を決定し、物流業界の抜本的な改革を進めています。これは、(1)商慣行の見直し、(2)物流の効率化、(3)荷主・消費者の行動変容、の3つの柱を中心として、物流業界全体の持続可能性と効率性を高めることを目指すものです。
(2)物流の効率化に含まれる施策の一つとして、例えば「物流DXの推進」が挙げられます。国土交通省の資料によれば、物流DXは「物流の自動化・機械化」と「物流のデジタル化」の2つに分けて紹介されています。
自動化・機械化においては、自動運転トラックの実用化や、自動運航船、ドローン物流の導入、低速・小型の自動配送ロボットの活用による配送サービスの拡充などが検討されています。
デジタル化においては、輸配送管理システム(TMS)の導入により、出荷から配送までの情報を一元管理することで、各プロセスの最適化が期待されます。GPSトラッカーによる車両位置の把握や、AI技術を活用した配送ルートの最適化なども、業務効率の向上に寄与すると考えられます。また、電子データ交換(EDI)の導入により、貨物や配送先についての業務情報の電子的なやり取りが可能となり、事務作業の効率化も進んでいます。

具体的な対策と効果

運送会社の取り組み
運送会社では労働時間削減のため、輸送形態の見直しを進めています。例えば、一つの行程を複数のドライバーで担当する中継輸送の導入や、運送会社間でそれぞれ得意とする地域の輸送をお互いに委託しあう共同配送の実施などの取り組みが行われています。

荷主企業の対応
荷主企業には、物流現場の取引環境や労働時間の改善への協力が求められています。特に重要なのが「荷待ち時間の短縮」です。荷待ち時間とは、荷積み・荷下ろしのために物流センターや配送先などの都合で生じるドライバーの待機時間のことを指し、積み下ろし作業を行うスペースなどが限られていることなどから発生するものです。 荷待ち時間の短縮のための対策としては、具体的には、トラックの予約受付システムの導入、積み卸し作業の効率化、リードタイム調整の実施などが挙げられます。これらの取り組みにより、ドライバーの労働時間における運転以外の拘束時間を減らし、限られた時間内での効率的な輸送が可能となります。 また、輸送手段をトラックから鉄道・船舶へ切り替えるモーダルシフトも、環境負荷の低減だけでなく、ドライバー不足の解消や労働時間規制への対応策として注目を集めています。

一般消費者への働きかけ
EC市場の拡大に伴い宅配便の取扱個数が増加していることから、配送の効率化に向けた消費者の協力も重要となってきています。具体的には、確実に受け取れる日時を指定することや、配達状況確認アプリの活用、宅配ボックスの利用促進などです。これらの取り組みにより、再配達を減らし、配送業務の効率化を図ることが可能です。

物流2024年問題とSustainaLinkの物流ソリューション

物流2024年問題への対応は、個々の企業の取り組みだけでは限界があります。トラック事業者、荷主企業、物流を利用する関係者が一体となって対策を講じていかなければなりません。特に、荷主企業との協力関係の構築や、デジタル技術を活用した業務効率化の推進が重要です。これらの取り組みを通じて、持続可能な物流システムの構築を目指していくことが求められています。

三井倉庫グループにおける取り組みのご紹介としては、倉庫における混雑状況を可視化し、積み込みの事前予約を行えるシステムを一部拠点で導入しており、トラック待機時間の削減と、効率的な配送を実現しています。また、一部お客様の店舗向け配送業務においては、納品書などを電子化するペーパーレスシステムを活用することで、事務工数とトラック待機時間の削減を図っています。 今後も、デジタル技術の活用をはじめとした様々な施策により、物流の効率化を推進してまいります。

三井倉庫グループのSustainaLinkは、物流業界における労働力リスクを「知る」「見える化する」「改善する」の3STEPで包括的に分析し、具体的な解決策をご提案します。モーダルシフトをはじめとする物流効率化ソリューションを通じて、トラックドライバーの労働時間の削減と輸送の最適化に貢献いたします。物流2024年問題への対応に向けて、SustainaLinkを活用した持続可能な物流体制の構築をご検討ください。

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